大判例

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東京家庭裁判所 昭和46年(家イ)7120号 審判

〔主文〕相手方は申立人を認知する。

〔理由〕当裁判所調停委員会の昭和四七年三月一六日の調停期日において、当事者間に主文同旨の審判をうけることについて合意が成立し、その原因の有無についても争いがないので、当裁判所は、申立人法定代理人および相手方を各審問し、また申立人提出の資料にもとづいて必要な事実の調査をしたが、その結果によれば次の事実が認められる。すなわち、

(一) 申立人の法定代理人である田村貞子(昭和一六年四月二三日生)は、昭和三五年頃東京都において国籍タイ国のソム・ナローンと知合い、昭和三七年一一月六日正式に婚姻届出をなし、同年一二月末にタイ国に渡つたが、同居期間は一〇カ月ぐらいで、その後は、ソムが警察官として国境の町サコンナマン県クツトバーグ郡警察署に赴任した関係で別居同様の状態となり、そのためなれない土地での生活と経済的不安とで精神的・肉体的に疲れ、昭和四一年一二月五日に夫に無断で単身日本に帰国した。なお、帰国直前の同年一一月一四日に右貞子はタイ国籍取得につき内務大臣から許可されている。

(二) その後昭和四三年五月頃、右貞子が勤務した会社の上司である相手方と知合い、同年一二月頃から同棲し、翌四四年一一月七日に相手方と右貞子間の子として申立人を分娩した。

(三) 右ソムは、右貞子が帰国後は一度も来日せず、また昭和四五年二月四日付の在東京タイ国大使館登録係官宛の「貞子婚姻外の子確認の件」と題する書面によれば、貞子から子供ができたと連絡してきたが、その子供については私には一切の責任がないことを確認する旨記載されている。なお、右ソムと貞子間の離婚の問題は、人を介して多少の交渉はあるが、いまだその手続は完了しておらず、また、ソムから貞子に対しては、申立人は自分の子供ではないから、どうにか日本籍に入れるようにと再三いつてきているとのことである。

(四) 申立人の出生届出は、昭和四四年一一月二四日に右貞子から東京都目黒区長に対して、子の氏名を「トオルナローン」として届出されたが、その外国人登録の手続はなされていない。

右認定事実によれば、申立人と相手方間に血統上の父子関係が存することは明らかである。

ところで、申立人は、日本とタイとの二重国籍を有することとなつた田村貞子を母として出生し、その夫はタイ国人であるから、一応形式的にはタイ国ということになり、従つてまずその裁判管轄権が問題となるが、本件は、その当否は別として、日本人である相手方に対して認知を求める事件であり、また申立人および相手方の住所地はいずれも日本国の東京都に存するのであるから、わが国の裁判所が国際裁判管轄権を有し、かつ、当裁判所が管轄権を有することは明らかである。

次に、その準拠法について判断するに、法例一八条によれば、子の認知の要件は、その父に関しては認知の当時父の属する国の法律によりてこれを定め、その子に関しては認知の当時子の属する国の法律によりこれを定める旨規定されている。ここにいう父とは、本件の場合は日本人である相手方を指すものというべきであるから、本件において父に関する要件は日本国の法律を適用すべきものと解する。また、申立人は前記のとおりタイ国人であるから、認知の要件についてはタイ国法を適用すべきことになる。

そこで、タイ国民商事法典によれば「嫡出と認めるここを求める訴は、左の場合に限り提起することができる(中略)。(4)受胎を推定し得る期間中に父母の公然たる同棲があつたとき。(中略)。右の訴は、受胎を推定し得る期間中に、母が他の男と性交した場合、又は母の性生活が悪名高い評判のものであつた場合、もしくは男がその子の父でない場合は棄却となる。嫡出と認めることを求める訴は、子が未成年ならその法定代理人により、またはその子が成年となつてから一年以内に子によつて提起することができる。」(一五二九条)旨の規定が存する。同法典では「婚姻外で出生した子は、母の嫡出子(legitimate child)とみなす」(一五二五条)と規定し、婚姻外の子も、婚姻中に出生した子の場合と同じ表現を用いているので、前記「嫡出と認めることを求める訴」といのは、「認知を求める訴」と読み替えることが可能である。

そこで更に問題となるのは、同法典においては「婚姻中又は婚姻解消後三一〇以内に出生した子は、夫の子と推定する。」(一五一九条)との規定が存するが、このように夫の子と推定されている子に対して、夫以外の者が認知をすることが許されるかということである。しかし、この点については、わが国の民法においても同様の規定が存するが、妻がその夫によつて懐胎することが不可能な事情にあるときは、その妻の分娩した子は夫の子と推定されないものと解釈され、従つてこの場合には、子の否認の訴によることなく、親子関係不存在確認の訴によつてその父子関係を否定し、もしその夫が死亡している場合は、子から実父に対する認知の訴によつて、間接的に母の夫との間の父子関係を否定し、更に、場合によつては、戸籍法一一三条による戸籍訂正の審判によつて、戸籍面上形式的に父子関係を否定することが行なわれているのであるから、日本と同じくドイツ法系に属するタイ国民商事法典においても、同様に解釈することは許されるものと解する。

そこで、前記認定事実につき、各準拠法に照らして判断すれば、相手方は、申立人を認知すべきものであり、従つて本件申立は理由があるので、調停委員<略>の各意見を聞いた上、家事審判法第二三条により、主文のとおり審判する。

(日野原昌)

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